オステオパシー(Osteopathy)って?
ギリシャ語の「骨」を意味するオステオンと、「病気・治療」を意味するパソスを合わせた造語です。
直訳では整骨療法となりますが、対象は骨や関節だけではありません。
筋肉・靱帯・筋膜(筋肉や組織を覆っているもの)から神経・血流・リンパの流れ・ホルモン・内臓諸器官、
更には精神的な部分(Mind・Spirit)といった観点から、不調となる原因を探して、
合理的、科学的な見地からアプローチする手技療法です。
ホリスティックアプローチ(局所ではなく全体をみること)であり、
且つ使用するテクニックも「手技療法」と呼ばれるものの殆どの要素を網羅しています。
また、科学的な構造や機能の知識を元に施術をする為に、
何がどうなっているのかをクライアント様に説明し理解してもらえる事も大きな特徴です。
(以下長文です。お時間のある方はどうぞ)
🍀イントロダクション
身体のどこかが痛い。だるさがずっと抜けない。姿勢を保っているだけでつらい等々、私達人間は多くの肉体的な悩みを持っています。最近では健康に関しての関心が高まり、結果、多くの情報やビジネスがあふれています。オステオパシーという聞きなれない言葉を知った方も、きっと色々な情報を調べる中でたどりついたのではないのでしょうか?初めて聞いたという方もいるかもしれません。また、本来の姿とは違う形で伝えられた方も中にはおられると思います。ここでオステオパシーとは一体何か?、トリートの考えるオステオパシーとは何かをお伝えします。
🍀オステオパシーの誕生 創始者スティル医師の目指したもの
日本では聞きなれない言葉ですが歴史は長く、1874年にアメリカの医師アンドリュー・テイラー・スティル博士により発表されました。スティル医師は自身が医学に携わりながらも、流行性の髄膜炎によりその子供達三人を亡くすという悲劇に出会いました。医師は当時の投薬や外科手術に疑問を感じ、それまでの知識をリセットして、そこから長年にわたり人体の根本的な構造や自然治癒力に注目し研究を続けました。人体を構成する骨、筋肉、靭帯、内臓、神経、血管などの構造と機能は互いに連動する(ユニットである)事に気づき、解剖学、生理学、病理学を元にオステオパシーを考案しました。また、スティル医師は連動するのは身体的な部分のみではなく、その患者自身の全て「体・心・精神(Body・Mind・Spirits)」であり、それに対してのアプローチを提唱しました。患者が主訴を訴えた時に、それまでスティル医師が取り組んでいた医学では「その部位のみに対する治療」だったのに対し、困難の末にたどり着いた新しい哲学は「患者自身を診る」という事だったのです。
🍀 オステオパシー施術の哲学
「身体は、ひとつのユニットである(つながっている)。」
「身体は、それ自体が自然治癒力を持っている」
「構造と機能は相互に関係している」
シンプルなように聞こえますが、様々な方に対して施術を重ねる程に素晴らしい哲学だと感じます。
(以下はトリートの解釈です)
「身体は、ひとつのユニットである(つながっている)。」
例えば、軽い頭痛が続き日常生活にさわるという主訴を持ったクライアントに対するアプローチを考えましょう。頭痛の理由は様々ですが、オステオパスは全身を検査します。頭痛の原因を特定する事は難しいので、ひとつの例えではありますが、原因が座り方であったします。普段座っている間、足を組んだりと骨盤が寝た(骨盤上方が後ろに倒れた)状態だと、脊柱(せぼね)が重心バランスにより前かがみのCの字になります。感覚器である顔はまっすぐ前に向けなくてはならないので、前かがみになっている肩の角度から無理に頭を上げるように、首をぐっと後ろに反らすようにしていなくてはなりません。首の後ろにはいくつもの重要な筋肉がありますが、筋肉は動き続ける事には慣れていますが、静止した状態を維持し続ける事にはあまり得意ではありません(部位にもよります)。結果、筋肉は硬く張ったままの状態になり疲労してゆきます。それまでテレビやパソコン画面の文字を追う事を手伝っていてくれていた首の筋肉が硬くロックしてしまえば、目を動かす筋肉は負担を一手に引き受けなくてはならず、今度は目がひどい疲労状態になります。目の周りが軽い炎症状態になり血行が悪くなると、まわりの神経を圧迫し周辺組織に痛みを誘発する。結局は頭痛を治す為には姿勢の矯正が必要だった。という事も考えられるのです。
この例は身体がユニットである事の説明の一例ですが、簡単な施術例で言えば、左の膝を悪くした時に、今度はそれをカバーしていた右膝が痛くなったとして、クライアントの主訴は元々悪くしていた左膝を忘れ、新しく悪くした右膝であるところを、オステオパス(オステオパシーの施術者)はその元である左膝の障害を検査により導き出して施術をする。という説明がわかりやすいでしょうか。痛みを出している場所はその原因の場所とは限らない。、この考えによってオステオパスは全身を検査、施術してゆくのです。
「身体は、それ自体が自然治癒力を持っている」
人間の身体は、知れば知るほど不明な事は多いです。私達オステオパスは「治す」という言葉を使いません。クライアントの身体をあるべき姿に近づける事を最大の目標とします。関節の状態や筋肉の異常緊張、筋膜のねじれなどに対してアプローチし、血流やリンパなどの体液、神経系の異常をリセットする事が出来れば、自ずと身体は健康を取り戻すはずです。身体自身はその持ち主の意思がどうであれ、懸命に健康であるように、生命を維持するように頑張っています。
ただし身体はどうしても勘違いしてしまったり、頑張るべき方向を間違えてしまったりします。オステオパシーの科学の目で状態を判断し方向修正が出来れば、そこでオステオパスの役割はほぼおしまいです。 スティル医師は「Find it, Fix it, Leave it alone (それを見つけ、施術し、あとはほうっておきなさい)」と教えました。その場でクライアントの要求のままにやりすぎてしまうと逆効果の可能性があるという意味も含まれています。
「構造と機能は相互に関係している」
たとえばあなたに不幸にも気分のふさぎこむ事が続き、前向きに人生を歩めないという精神状態が続いたとします。精神的なものが交感神経の異常興奮を引き起こすなどして、内蔵の機能が著しく低下したとします。下痢や便秘などを起こし、腹痛をよく訴えるようになり、前かがみの姿勢で生活しがちになってゆきます。前かがみの姿勢は更に内臓を圧迫すると共に、猫背の姿勢を作ります。そうして気づかぬ内に胸郭(胴体)のスペースが狭くなり、呼吸が浅くなり体液の流れが悪くなり、自律神経系にも負担をかけてゆく悪循環に陥るとします。この時点で、すでに猫背と胸郭スペースの減少という、構造自体が変わってしまっています。精神状態や内臓の働きという身体の機能が、その構造まで変えてしまうのです。また、胸郭スペースの減少は更なる機能低下や派生的な症状も出してゆきます。構造が機能に影響を及ぼしたのです。これらは(経過時間や内容によりますが)可逆性で、機能、もしくは構造を正常に戻してあげる事によってその一方に対しても働きかける事が出来るのです。
オステオパスはクライアントの訴える症状や検査により、その理由はどこからくるのか?どちらが先か?主要(Major)な原因を機能と構造どちらからでもアプローチ出来るように発想してゆきます。
以上のように、オステオパシーの考え方を長く述べてきましたが、オステオパシーとは何か?の問いに対しては以上のような哲学、考え方の体系であるという答えが最も適当なのです。では実際は何をするの?という問いに対しては、「日本の法律や常識の範囲内で、徒手による施術は何でもする」というのが答えになります。あえて例を挙げると、筋肉に対するアプローチ、関節に対するアプローチ、筋膜に対するアプローチ、スラストテクニック(ぽきっと音が鳴るようなテクニック)、カウンターストレイン(楽な位置に体を持って行き神経の異常興奮を消すテクニック)、筋エネルギーテクニック(クライアントの協力により行うテクニック)、クレニオテクニック(頭蓋に対するテクニック)、リンパテクニック、姿勢指導、生活指導、食事指導、、、∞
オステオパシーにより生み出されたり、派生した多くのテクニックは形を変えて世界中に偏在していますが、それはスティル医師の指導でもありました。「原則を守る事が大事であり、テクニックに固執するな。」と教えた医師は、驚くべき治療効果を出しながらも教え子には自身がどんなテクニックを行っていたかという記録をさせませんでした。自身の治療体系=オステオパシーとすると、以降の弟子達はそれを真似るだけで劣化してゆくだけだと知っていたのです。以降140年以上にわたり、教え子達の自由な試行錯誤の元、常に進化を遂げながら様々な素晴らしいテクニックが開発される事となり、世界の徒手療法の源流となったのです。
🍀世界のオステオパシー
アメリカではM.D.(Doctor of Medicine)と共にD.O.(Doctor of Osteopathic Medicine)として権限が与えられ本物のドクターとして活躍しています。外科手術後に投薬と徒手による施術を行う、という事も日常的に行われているようです。私を講師として茅ヶ崎のオステオパシー学院ACO(※)に呼んで頂いた学長の森田博也,D.Oは日本在住唯一の有資格者(オステオパシー医師)です。
また、イギリスやフランス、カナダ、オーストラリアなどの欧米でも補完医療の1つとして国から医療資格が与えられています。
世界共通基準の無かったオステオパシーの各団体に対して、共通の教育水準を設けるというガイドラインが2007年にWHO(世界保健機構)で採択されました。WHOでオステオパシーの有効性が認められている事はオステオパシーに対する注目を集めています。
※ 2010年4月 湘南、茅ヶ崎市に開校した3年制のオステオパシー専門学院です。私も開校以来、この学院で講師として協力させて頂いています。
(2017年現在継続中)
🍀国内のオステオパシー
日本国内における法的なオステオパシーの位置づけは無く、民間療法、整体の一つとして捕らえられています。例えばオステオパシーの本を読んでその気になった人が翌日オステオパシーの看板を掲げても、待てをかける法律は無いのです。先進国の中では特に扱いが低いのですが、色々と難しい事情があるのでしょう。 鍼灸あんま、柔道整復などの有資格者がオステオパシーを勉強した、もしくは3年制以上のオステオパシー専門の学校で基礎から学んでオステオパシーを理解しオステオパスを名乗る、というのなら判りますが、理想通りにはなっていないのが実情です。
また、現在知名度が低いオステオパシーですが、名前だけ有名になると大きな資本が入ってしまい商品化され、魂を抜かれてしまった中身の無いものが広がってしまうというジレンマもあります。それを防ぐには、オステオパシーを本当に理解した本物のオステオパスによる基盤が必要です。